食道がん
食道がん
食道は、のど(咽頭)と胃をつなぐ管状の臓器で、口から食べた食物を胃に送る働きがあります。食道がんは、約半数が食道の中央付近に発生し、次に食道下部に多く発見され、時に多発する場合もあります。食道がんは男性に多く、年齢別でみると、50歳代から増加を始め、70代でピークを迎えます。食道がんは、主に日本人で特に多い扁平上皮がん(食道がんの90%程度)と、欧米人に多い腺がん(5~10%程度)に大別されます。扁平上皮がんは、飲酒と喫煙に強い関連があり、特にアセトアルデヒドの分解に関わる酵素の活性が遺伝的に弱い方(お酒を飲むと顔が赤くなる方、または以前に顔が赤くなったことがある方)は危険性が高まることが知られています。さらに喫煙と飲酒の両方をされている方は、より危険度が高まり、熱いものを飲食することも危険度を高めるとされています。一方、腺がんは、逆流性食道炎やバレット食道などの食道の慢性炎症を背景としており、欧米では食道がんの半数以上を占めていて、近年では、食生活の欧米化や肥満の増加に伴い、日本でも増加傾向にあります。
食道がんは、初期にはほとんど自覚症状がありません。早期発見される例のほとんどは、内視鏡検診で偶然に発見された例です。がんが進行するにつれて、飲食時の胸の違和感(ちくちくした感じ、しみる感じと表現することが多く、これらは一時的に消長することもあります)、飲食物がつかえる感じや、つかえによる摂食不良と消耗性の体重減少、周囲臓器への進展・浸潤による胸や背中の痛み、咳、声のかすれなどの症状が出ます。胸や背中の痛み、咳、声のかすれなどの症状は、肺や心臓、のどなどの病気でもみられますが、肺や心臓やのどの検査だけでなく、食道も検査することが大切です。
食道がんの病期分類は、がんの深さの分類(T因子)とリンパ節転移の分類とによって定められ、ステージ0からⅣbまで分類されています。病期分類に応じた基本的な治療方針は、食道癌診断・治療ガイドライン(日本食道学会)により示されています。がんが粘膜内にとどまりリンパ節転移を認めないものは、原則として内視鏡治療の適応となります。ただし、がんが食道の全周に及んでいたり、病変の大きさが過度に広範であったりするために、内視鏡治療が困難な場合では、手術や化学放射線療法の適応となります。がんが粘膜よりも一層深い「粘膜下層」の比較的浅いところまでにとどまる場合(T1a-MM/T1b-SM1)では、10~20%程度にリンパ節転移があるため、内視鏡切除した病理組織検査の結果を見て、追加の外科手術や化学放射線療法の適応を決めることになります。粘膜下層の深いところまでがんが及んでいる場合(T1b-SM2/SM3)、40%以上の確率でリンパ節転移があるため、手術もしくは化学療法の適応となります。がんが粘膜下層にとどまっている例では、手術と化学放射線療法の長期成績はほぼ同等と考えられているため、それぞれの治療の長所・短所を勘案の上、治療法を選択することになります。筋層以上の深いところまでがんが浸潤し、外科切除可能な例については、術前化学療法の後に外科手術が行われます。ただし、状態によっては、放射線化学療法のみを選択される場合もあります。それ以上進行した例では、化学放射線療法や、支持療法などが行われます。
食道の早期がんは、バリウムによる胃がん検診の発見は困難であり、早期発見を期すには、内視鏡検査が必要です。また、咽頭がんの項目にも記載したように、口腔から食道領域にかけてのがんは、領域性に同時性または異時性に多発することがある他、胃がんとの合併も多いことがわかっており、治療後も定期的な内視鏡検査による厳重な監視が必要となります。